猛獣、もし戦えば!

このブログを始めるにあたって

https://i.ytimg.com/vi/2XqAJ-J4a9k/hqdefault.jpg

初めに

猛獣と呼ばれている動物同士が戦えばどちらが勝つのでしょうか?

子供じみたこうした問いに私はまじめに答える為にしばらくこの種のブログを書いていくつもりですが、まず最初に「猛獣、もし戦えば」のブログに対する私の姿勢と基本的な肉食獣についての知識を皆様に知って頂いてそれから具体的な動物同士の戦いのブログを書いていきたいと考えています。そのほうがはるかに不毛な疑問も少なく今後スムーズにブログを書いていけると私は思うからです。

例えば人間にとっては非常に危険な動物である「サイと水牛とはどちらが強いのか」は考える事自体が無駄だと私は思っています。この両者は同じ場所に住んでいて現実には小競り合い程度の戦いはあると思います。その体格や体力、重量から考えてもサイのほうが確実に強いとは思います。しかしこの両者とも草原に生えている草を食料にしている動物同士であり命がけで戦う理由は全くありませんしそんな事はしません。戦う可能性の無い動物同士の戦いを考えるのは無駄です。しかし草食獣同士の戦いをすべて否定する訳ではありません。

例えば「カバ」、この動物は見かけとは違って非常に猛々しい性格をしていて世界最大のワニであるイリエワニとも同居しています。現在のアフリカで人間が犠牲になる数が年間で一番多いのはカバだと言われておりカバと他の草食獣との決死の戦いは現実にも頻繁に起こっています。もう一つは「アフリカゾウ」でありこの動物も他の草食獣とは別格です。ライオンがアフリカゾウを殺すよりもはるかにアフリカゾウがライオンを殺すほうが多いのが現実であり、決して無視できない存在です。こうした草食獣は他の動物とは別であり積極的に今後考えていきたいと思います。

とはいえ「動物同士の戦い」の基礎は間違いなく肉食獣にありまず今回のブログでは肉食獣の特徴とその進化過程の基礎について記述してみたいと思います。宜しくお願い致します。

肉食獣の進化の過程による違い

何度か前のブログで肉食獣であるネコ科とイヌ科について軽く触れましたが今回はもっと具体的に見ていきたいと思います。肉食獣の中でもこの2科は他の肉食獣よりも確実にその性能を進化させていてもっと細分化して考える必要があります。

当然の事ではありますが肉食獣は「その獲物とする動物」をより効率良く獲る為に進化してきています。その進化の過程が同じ科であるネコ科とイヌ科の中でも確実に別れているのがこの科の動物の特徴です。具体的に言えばネコ科の動物は一般的に大きな牙、出し入れ可能な「爪の鞘」の中にある鋭い爪を持っていますがネコ科である筈のチーターは「爪の鞘」などなく爪は剝き出しであり、しかもそれほど鋭い爪を持っていません。「速く走る事」に特化して進化したチーターにとって鞘のある爪などは邪魔でしかなく退化してしまった訳です。しかし同じ場所で同じ「速く走る」為に進化したライオンにはしっかりと「爪の鞘」の中に入った鋭い爪が残っています。これがネコ科の「進化の過程の違い」です。チーターが「チーター亜目」という一種類だけの特化したネコであるのに対してライオンは「ネコ科ヒョウ亜目」の中で進化しており進化の過程が同じネコ科でありながら全く違う訳です。

この「ネコ科ヒョウ亜目」に属する動物は「ライオン」「トラ」「ヒョウ」「ジャガー」だけであり独特の特徴を持っています。まず「咆哮」と呼ぶ雷にも似た声を発せられるのが特徴で肉食獣の中でこれが出来るのは「ネコ科ヒョウ亜目」と「イヌ科イヌ亜目」だけであり他の肉食獣はこの声が出せません。どちらかと言えばヒョウより大きいピューマでも飼い猫と同じ様な声しか出せずこの「咆哮」は出来ません。もう一つ「ネコ科ヒョウ亜目」に属する動物の特徴はその「通常の獲物」が自分の体重よりもはるかに重く大きい動物であるという原則があり、この原則からヒョウだけは少し外れます。ヒョウはサルを獲る為に進化したネコだと思ってもらっても良いです。だから他の「ネコ科ヒョウ亜目」の動物があまり木に登らないのに対してサルを追いかけるヒョウは木登りが得意な訳です。この「ヒョウの獲るサル」に「人」が入った時に「人食い」となる訳でネコ科の動物で「人食い」になるのはたいていがこの「ネコ科ヒョウ亜目」な訳です。

この「自分より大きな動物を通常の獲物にする」肉食獣は殆どネコ科とイヌ科だけであり、イヌ科でのこの役目はオオカミやリカオンやドールが行っています。ネコ科は単独が多くイヌ科はグループで狩りをする事が多いのが一般的ですがこの「自分より大きな動物を通常の獲物にする」肉食獣の共通点は非常に強力な顎の力を持っている事です。自分よりもはるかに大きな動物に対しては殆どネコ科の持つ「鋭い爪」は役には立ちません。爪を武器に使えるのは逃げていく獲物に対してで、自分に向かってくる自分よりもはるかに大きな動物に対しては使う方法が無い訳です。攻撃を仕掛けるのもとどめを刺すのも牙とその牙を使う顎の力が絶対的に必要です。

では具体的に彼らはどういう構造の顎をしているのか次項ではその頭蓋骨を見ていきましょう。

ネコ科の頭蓋骨

http://humanbody.jp/zoology/item/item-img/model/bcbc289-1.jpg

上の写真が「ベンガルドラ」の頭蓋骨です。飼い猫の頭蓋骨も基本的な構造は全く同じで牙や烈肉歯の大きさが頭蓋骨に対する比率と違うだけです。非常にシンプルな構造ですがそのシンプルさゆえに顎が左右に動く事は決して無く上下にのみ動き、噛む力の100%をその牙にかける事が出来ます。人間の噛む力が50キロから60キロであるのに対してトラのその力は300キロを上回ります。しかも人間の様に左右には決して動きません。牙が大きいのは勿論ですがその奥歯まで極めて鋭く巨大です。この顎の力で自分よりはるかに大きな動物を倒せる訳です。

イヌ科の大型獣の頭蓋骨

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1a/Honshu-wolf-skull.jpg/250px-Honshu-wolf-skull.jpg

上の写真は現在絶滅したと言われている「ニホンオオカミ」の頭蓋骨です。この左右に広がり頭頂部が盛り上がっているのが「オオカミ」と「イヌ」との頭蓋骨の違いでありオオカミとよく似た体形の「イヌの頭蓋骨」はもっと左右の幅が狭く、頭頂部が平らです。頭蓋骨に対する牙の大きさや奥歯の烈肉歯の比率も「オオカミ」と「イヌ」では全く違います。牙も烈肉歯もオオカミは非常に大きく逆にその体形に対しての「腸の長さ」の比率はイヌの半分ほどしかありません。これがオオカミがその体形の割には犬と比べると体重が非常に軽い事の原因でイヌよりもはるかに敏捷に動ける訳です。この頭蓋骨も顎が上下にのみ動き左右には決して動かない構造である事が解ります。

ニホンオオカミは体重30キロ弱の小型のオオカミですが研究での推定される顎の力は約160キロ、IQ(知能指数)はジャーマンシェパードの2倍以上である事が解っています。「イヌの顎の力」の最高値がアメリカンピットブルの140キロほどでありニホンオオカミはトラの体重の6分の1弱程度の大きさでありながらトラの2分の1強の顎の力を持ち群れで自分よりはるかに大きな動物を倒す極めて優れたハンターであった事が解ります。

クマの頭蓋骨

http://wing-auctions.c.yimg.jp/sim?furl=auctions.c.yimg.jp/images.auctions.yahoo.co.jp/image/dr115/auc0211/users/7/7/1/9/ore_nonaha_rupin3rd-img600x400-1424599231dlxhfj20483.jpg&dc=1&sr.fs=20000

最後に比較する為にヒグマの頭蓋骨の写真を載せてみました。大きさはトラの頭蓋骨とほぼ同じですがトラやオオカミの頭蓋骨と全く違う事がお解り頂けるでしょうか?

その頭蓋骨の大きさと比較して牙が非常に短く逆に前歯が大きく奥歯がうすの様になっていて尖っていません。このうす状の奥歯は顎が左右にも動く事を示しています。頭蓋骨の形自体もネコ科やイヌ科のものと比較して非常に細長く、これでは顎に力を入れる筋肉が付く部分があまりありませんし牙にすべての顎の力を集中させる事も不可能です。また脳の容量が少ない事も上の2つの写真と比べれば一目瞭然です。

人間を襲い北海道では恐れられるヒグマの頭蓋骨ですらこの程度です。ネコ科やイヌ科が高等肉食獣である事は原始的な肉食獣であるクマと比べれば誰でも解ります。肉食獣の進化の度合いはその歩き方だけでなく「獲物を噛み殺す」顎の力や肉を切り裂く烈肉歯の構造をこうして頭蓋骨を見る事で容易に知る事が出来ます。

あとがき

本格的に動物同士を戦わせてみる前にその前段階のブログを書いてみたのですがどうでしたでしょうか?

ここまでお読み頂いたかたはもう相当肉食獣についての知識をお持ちである事は確実です。こういう知識の前提が無いとその印象だけで動物同士の戦いの勝敗を勝手に決めてしまいがちになります。

今回は全く書けませんでしたが例えば「ワニ」などの噛む力はトラをはるかに上回ります。しかしインドなどでは現実にワニが沢山いる川や湖でもトラは悠々と泳いでいて殆ど襲われて殺された記録がありません。また肉食獣同士にも厳しい掟がある事も全く今回は触れる事が出来ませんでした。こういう謎には今後個別のブログで答えていくつもりです。「猛獣」という定義もかなり難しく猛獣に見えない動物が実は大変怖い能力を持っていたりその逆もあります。現実の野生の世界での生活は大変厳しくその中で暮らしている動物たちはどれも素敵だと私は思います。その世界の中で頂上にいる動物に次回からは具体的に焦点を当てていくつもりです。

次回は「ライオンとトラはどちらが強いのか」を記述してみたいです。宜しくお願い致します。